ホーム > 特集 > 企画 >求められる「健康」「楽しさ」「安心」「安全」
これからのスポーツ・運動施設 その望ましい姿と日運協の役割
司会 「日運協会員として思い描く、これからのスポーツ・運動施設整備の望ましい姿とはどのようなものだろうか」
平井 「ロンドン五輪の会場はどの施設もみんな居心地がよかった。プレーヤーが全力でプレーできる施設であり、観衆にとっても選手をまじかに感じながらプレーを堪能できる施設だと感じた。なぜ、そうした印象を受けたのか―。それはそれぞれの施設には『安全への配慮』があったからだ。基本はやはり『安全であること』だ。」
高松 「国内のスポーツ施設は、その大半が『競技施設』。スポーツイコール競技という認識が支配的だったからだ。スポーツの持つ可能性の一握りの部分にしか目を向けられていない。スポーツ文化の違いと言っていい。人々の健康に果たす役割はもちろん、スポーツの持つ多様な可能性に気付くことが大切だ。その気付きが、これからの施設の在り方を変えていくはず。」
奥 「スポーツは、日本国内でもクオリティオブライフに欠かせないも のになっている。ただ、欧米諸国の施設がサッカーならサッカー、ラグビーならラグビー、というようにそれぞれ専用施設があるのに対して、日本のそれは多目的なものが多い。土地の確保など克服しがたい課題もあるが、これからの施設は、スポーツそれぞれの特性に応じたものにしていくことが望ましいのではないだろうか。」
岡田 「いま国内で使用しているグラウンド・コート舗装材は、クレイ系、天然芝系、人工芝系、合成樹脂系など多岐にわたる。降雨や砂塵など天候の影響を受けにくい安心・安全なグラウンドづくりを志向しながら、天然素材の再利用化技術の開発を進めていく必要がある。」
長谷川「スポーツ人口を増やしたい。私たち自身がそうであったように、小さい子どものときから外で遊ぶ習慣を身に付けるに限る。子どもたちが一心不乱に楽しく遊び、その傍らでは同世代、または先輩・後輩世代のママ友たちが安心して子育てや生活情報を交換し合う―そんな『ママとも公園』をつくりたい。多くの人の知恵と私たちのスキルとで、子どもと保護者が安全に、楽しく集える空間を創りたい。」
司会 「望ましい施設のキーワードとして『健康』『楽しさ』『安心』『安全』―の四つが挙がった。これらを具現化していく日運協会員の役割、あるいは必要になる活動は何だろう。
奥 「将来的には、私たち日運協がスポーツ施設全体のプロデュースを担っていけるようになる、というぐらいの意識・意欲が必要だろう。そのためには、まず技能の向上だ。日運協はこれまでに実務経験10年以上の運動施設施工技士を約300人養成。2010年度からは国土交通省から登録運動施設基幹技能者講習の認定を受け、13年3月現在、同基幹技能者を106人養成しているのはそのためだ。地域によって異なる使用材料にしてもできるだけ速やかに最適化する必要がある。」
平井 「クレイ系舗装一つを挙げても、機械施工と人力施工とがある。地域によって舗装素材や気象条件も異なる。利用者が安全で快適な運動ができるようにするには、熟練の技能が必要だ。均一で高精度な施工を担保するためにも運動施設施工技士、登録基幹技能者を根気強く養成していかなければならない。」
高松 「いまの施設には、四つのキーワードが反映されていない。私たち日運協会員企業が、この国のスポーツ文化を施設整備の面で支えているという社会的意義をもっとユーザーに知ってもらう努力が必要だ。発注者が安心して日運協会員企業からの提案を認めてくれるようになるには、さらに技術・技能の向上が欠かせない。」
岡田 「より多くの人が、スポーツを楽しんでいるシーンをもっと多く見たい。毎日、歯磨きするように、スポーツすることが当たり前になればと思う。スポーツをライフスタイルに取り込むことは、自殺者の減少・医療費の削減につながることだと信じている。また健全な出会いの機会にもなり、結果として人口の確保・増加に寄与することになるだろう。」
長谷川 「人の心と身体の健康に資するスポーツ施設の整備を担う日運協の会員企業に求められているのは、人の心と身体に優しい技術であり、技能だ。私は東日本大震災の被災地支援で出会った子どもたちの笑顔が忘れられない。この国の将来を背負って立つ子どもたちを育てるスポーツ・運動施設整備は、手間を掛けないといけない。国土交通省のご指導の下、造園6団体の皆さんとも連携・協力しながらこれからも心と身体の健康づくりを支えていきたい」
「スポーツ・フォア・オール」の精神
青少年のいじめ、学校教育現場における体罰、この国は少子・高齢化が進む中で色々な問題が噴出している。日本人の心と身体の健康が脅かされ、蝕(むしば)まれている。こうした社会環境にあって、日本人のこれからの健康づくりを考える上で模範となるのはドイツ。道の角を曲がれば運動場、体育館、プール、子どもの遊び場が目に飛び込んでくる。「誰もが」「どこでも」「いつでも」「いつまでも」スポーツができ、見て楽しむことのできる国だ。
ドイツは第2次世界大戦後に日本と同様、経済復興を遂げたが、その過程では心疾患や腦疾患、肥満などの生活習慣病の増加をみた。この反省に立って競技スポーツとは違う、幼児から高齢者まで誰もが運動を楽しめる「スポーツ・フォア・オール(みんなのスポーツ)」という文化を生み、根付かせてきた。そのことに大きな役割を果たしたのが第1次、第2次ゴールデン・プランに基づくインフラ整備と、「スポーツで元気になろう!」を標語に展開されたトリム運動だ。
ゴールデン・プランによって整備された施設を拠点に誕生したスポーツクラブが、日常の中にスポーツを当たり前のように定着させる重要な役割を果たしてきた。そのクラブもいまや全国で約92000個所にまで増えている。ドイツのスポーツ文化は、地域のスポーツクラブがそれぞれの地域の共同体意識とスポーツ精神とを融合させ、それが国民の日常生活に浸透して形成されてきた文化と言ってもいいかもしれない。
ドイツ国内の地域に点在する運動施設には、シャワーやロッカーなども常備され、広い駐車場も備わっている。緊急時に避難所となることも想定している。これからの日本のスポーツ施設、運動施設には、ドイツのように自然環境などにも配慮した地球環境に優しく、持続可能な施設整備が求められている。何よりもスポーツが安全に楽しめて、健康づくりにつながる、スポーツが生活の一部になるような、多様で魅力ある環境整備が求められているといえるだろう。日本の「みんなのスポーツ」は手付かずなのだから。
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