東京都民の生活と首都東京の都市活動に欠かすことのできないライフライン「水道」。
安全でおいしい水へのニーズが高まる一方、高度経済成長期に整備した大量の施設の老朽化への対応や、大規模地震への対応が求められている。
こうした背景を踏まえ、東京都水道局は今後の取り組みの基本となる「東京水道経営プラン2013」を策定。
水源・浄水施設整備事業に670億円、送配水施設整備事業に2720億円、給水設備整備事業に300億円を投じ、地震や水質事故などのリスクに対応した安全性の高い新たな水道システムを構築しながら、多様化・高度化するニーズを反映した質の高いサービスを提供するという。具体的な取り組みを増子敦水道局長に聞いた。
―「安全でおいしい水の安定的な供給」に向けた施策の内容は。
「ことしは高度浄水処理100%を達成する記念すべき年となる。1989年の着工から四半世紀を経て金町浄水場の高度浄水施設が完成したのに続き、10月には三郷浄水場、年度末には朝霞浄水場の事業も完了する。この間の事業費は約2400億円に上るが、水1d当たりの金額でみると『建設費5円』『維持管理費5円』の合計10円だ。ペットボトルや宅配水などに見劣りしない品質の水が蛇口から安価に出ることを考えれば、合理的・効果的な事業だと考えている」
「次に安全でおいしい水を浄水場から蛇口まで届けるための管路の整備を着実に進める必要がある。地震対策と併せ古い配水管を取り替える事業をこれまでの2倍のペースで進めている。また、配水管から各家庭に水を送る私道内の給水管は地震に弱い塩化ビニール管がほとんどのため、私道内の給水管を整理して配水管を敷設し、給水管をステンレス管に交換する事業を開始した。対象となる私道延長は約1500`あるが、毎年70〜80`敷設して20年間程度で完了させる」
「東京はビルが多いため、貯水槽を使った水利用が水量全体の半分を占めているが、その直結給水化にも力を入れている。東京の水道は水圧が高いため直結給水がしやすく、高層ビルなどでもポンプを活用すれば蛇口まで水を送ることが可能で、新築のビルやマンションでは97%が直結給水となっている。貯水槽を使っている既存の建物も年間約3000件(うち増圧ポンプ設置が約1000件)で切り替えが行われている。これをさらに加速するため、道路下に埋設している配水管の分岐部からメーターまでの給水管を現状より太くしなければならない場合、この工事を都が施行する取り組みを2012年度に開始した。直結給水への切り替えには初期コストが掛かるが、配水管の圧力を利用するためポンプが必要なくなったりポンプの規模を小さくできるためエネルギーの節約になるほか、年間10万円ほどの貯水槽の点検・清掃などの維持管理費用が不要になる。切り替えによりコストがどの程度削減できるかをお客さまに理解していただくため、使用水量やポンプの種類に応じた試算をホームページ上でできるようにした」
「直結給水への切り替えを検討する場合、建物の所有者やマンションの管理組合は施工者や水道工事店に見積もりを依頼する。そこで、依頼者に分かりやすく説明ができるよう工事店に指導している」
―水の安定供給のためには既存施設の耐震化や長寿命化も欠かせない。どのような事業を進めていくのか。
「都では約40年前から水道施設の耐震化を進めており、配水管自体については地震に強い管にほぼ取り替えている。しかし、阪神・淡路大震災では大規模な地盤変動によって継手部分が抜け、給水できない状態になった。この経験を踏まえ、抜けない継手をメーカーと共同開発し、1998年から耐震継手管への取り替えを実施している。東日本大震災で液状化や道路崩壊が起きた地域でもこの耐震継手管が抜けることはなかった。ただ、都の進捗率は3割にとどまっているため、『耐震継手化10カ年事業』により10年後に5割強まで引き上げていく」
「浄水場から水を送り出す大口径の送水管(幹線)についても東日本大震災で広域的な断水が発生したことを踏まえ、二重化やネットワーク化を強力に進めていく。朝霞浄水場と東村山浄水場を結ぶ原水連絡管の二重化、朝霞浄水場と上井草給水所を結ぶ送水管(朝霞上井草線)や東村山浄水場と東大和給水所をつなぐ送水管(多摩南北幹線、多摩丘陵幹線)のネットワーク化などに重点を置く」
「高度経済成長期に建設された大規模浄水場も築後40〜50年が経過し更新の時期を迎えつつある。浄水場を更新する際、工事期間中の供給能力が落ちないよう、あらかじめ能力を増強する必要がある。金町浄水場の更新に当たっては、まず上流にある三郷浄水場の能力をアップし、東村山浄水場の更新では境浄水場の増強を先に進める。それぞれ高度浄水施設建設も含め700〜1000億円程度の大規模な事業となるだろう。この他にも浄水場の機能をフルに発揮できる規模の自家発電設備の整備などを進めていく」
「水道事業は、都と実際に工事を請け負う事業者との共同作業で成り立っている。日ごろから連携を強化し、都が発注する工事を高品質で安全に施工してもらうことはもちろんだが、既存建物の直結給水化などを促進するためには地元の事業者の働き掛けが重要になる。また、災害時の協定を見直したほか、事業者向けの『災害時行動マニュアル』を新たに作成して配布するなど、実際に災害が起きた場合の協力体制も強化している。これからも東京水道のパートナーとしてさまざまな事業への協力を願いたい」