災害時のスムーズな復旧・復興や、円滑な土地取引に向けて、地籍調査の推進が課題になっている。国土交通省は2013年度、民間事業者による開発などで、調査や測量の成果が地籍調査に流用できるケースで、国が民間事業者を直接補助する制度も設けた。地籍調査の現状と課題を取材した。
地籍調査は、一筆ごとの土地の境界や面積、所有者などを調べ、登記情報を正確にするもの。明治時代の公図に基づく従来の記録では、これらが不正確であり、円滑な災害復旧・復興などの支障になるためだ。1951年に制定された国土調査法に基づき市町村が主体となって調査を行っている。
しかし地籍調査は都市部を中心に進んでいない。11年度末の時点での全国の進捗率は50%。特に都市部(人口集中地区)が22%、林地が43%と遅れている。 10年度にスタートした国の「第6次国土調査事業10カ年計画」では、地籍調査の進捗率を19年度までに全体で57%、都市部で48%、林地で50%にまでアップする目標を掲げた。
国交省では、地籍調査を促進するため、前段階の調査事業として「都市部官民境界基本調査」や「山村境界基本調査」を10年度から開始した。さらに地方公共団体や民間事業者が、開発事業などで行う調査・測量の成果を活用するため、「地籍整備推進調査費補助金制度」を導入した。
地籍調査の進捗を全国的に見ると、首都圏や東海・北陸・近畿地区での遅れが目立つ。11年度末の時点で愛知県は12%、岐阜県は15%、三重県は8%にとどまっている。愛知県のうち名古屋市では、一筆が狭く、権利関係が複雑な都市部特有の事情もあり、4%と低い状況だ。
愛知県では現時点で、54市町村のうち豊田市など6市町村が地籍調査を実施しているが、名古屋市を含む25市町が休止している。また、23市町村が未着手だ。 愛知県の担当者は「調査の重要性に関する認識はあっても、市町村ではマンパワーや予算の確保が課題になっている。また、地元の地権者の認識も低い」と現状について話す。県では12年度、地権者へのPRと、事業に対する市町村への後押しを兼ねて、地籍調査について県民にアンケートを実施した。また、11年度から毎年、市町村の担当職員に対する研修会を開催、情報提供を行っている。
名古屋市では、地籍調査そのものは休止中だが、10年度に独自に官民境界基本調査を開始した。11年度からは国交省の同調査も行われている。大地震による津波被害が予想される港区をこれまでに完了した。現在、中川区の調査を進めている。 岐阜県では、42市町村のうち28市町村が調査に着手している。一方、全体の3分の1を占める14市町が未着手となっている。しかし動きもある。関ケ原町と川辺町が14年度、七宗町が15年度、垂井町と北方町が16年度の調査着手に向けて準備に入っている。県では、これ以外の市町に対しても、早期着手に向けて働き掛けを続けていく考えだ。
三重県では現在、29市町のうち四日市市など5市町が休止中だが、津市など約8割の24市町が調査を実施している。また、12年度に、津市をはじめ9市町で国交省の都市部官民境界基本調査を行うなど、今後の地籍調査に向けた動きが目立ってきている。取り組みのポイントとして県の担当者は「津波浸水想定区域や都市部など、地籍調査のメリットが生かせる地域を優先し、予算を有効に使っていくべき」と話している。
宅地開発などで得られた調査や測量の成果を地籍情報として活用できるケースで、必要経費を補助する「地籍整備推進調査費補助金」について、国土交通省は13年度から、民間事業者に直接補助金を交付する制度を創設した。 従来は、市町村が同制度を設けていないと、民間も補助を受けられない制度だった。13年度からは、市町村に同制度がない場合でも、国が民間事業者に対して、測量などの経費の3分の1を直接補助できるようにした。 13年度の補助対象について、6月28日まで申し込みを受け付けている。