次世代への「技能・技術の継承」が今、測量業界でも大きな課題となっている。建設投資額の減少と企業収益の悪化、それに伴って受注競争が激化し、低価格入札が慢性化。結果として、賃金の低下を招き、雇用する技術者の数も減った。測量業務は、2014年度設計業務委託等技術者単価で、測量主任技師をはじめ、職種平均で前年度比8.4%アップした。全業務の中で上昇率はトップだ。だが、ピーク時に比べ「まだ2割以上低い水準」だという。6月3日の「測量の日」に合わせ、若手技術者の入職問題や、健全経営に直結する適正な公共調達の在り方について、神奈川県測量設計業協会の永井博記会長に聞いた。
ホーム > 特集 > 企画 > 測量の日 『技術の継承』が喫緊の課題
前の自民党政権下、歳出歳入一体改革の中で公共事業予算の削減が始まり、民主党への政権交代後に、さらに大幅に削られた。ようやく元に戻りつつあるという今、技術者不足の問題が露呈してきた。
同時に、デフレ基調の中で「設計業務委託等技術者単価」も下げ続けられた。測量業務の技術者単価は、2013年までの過去16年間、右肩下がりの状況が続いた。2014年度は、業界の要望活動の成果もあり、前年度比8.4%のアップと、建設関連業務中で最高の伸びとなった。だが、ピーク時と比べ、まだ二十数%も低い状況にある。
技術者単価は、毎年、全国数百社の実態調査を参考にして決定していると聞く。しかし、前年に実際に支払っている賃金がベースになっている。だから、デフレが続けば上げられない。マイナスのスパイラルに陥ってしまうのは必然だ。
実態調査を基に決めるのであれば、給与水準のベースがしっかりしている、ある程度の規模の会社のみに対象を絞ってほしいと要望している。調べてみると、社員数人の規模の会社も含まれている。市場ニーズに基づいて決められている(公共工事の工事費の積算に用いるための)「公共工事設計労務単価」とは性質が異なる。給料が上がらなければいい人材が入ってこない。
安定的に仕事があるかどうかも大きな問題だ。特に、人件費の引き上げについては、今後も継続して要望していくつもりだ。
一方で、今回アップしたことによる“反動”も懸念している。つまり、「せっかく単価を上げたのに実態が伴っていないではないか」と判断されることだ。測量業務は自社の社員が直接従事するものだし、建設工事の労務単価とは意味合いが異なる。そもそも、積算額の100%で受注できれば、上昇分の恩恵を受けることもできるだろう。だが、落札率が80%だったとしたら、上昇分の全てが給料に反映されることにはならない。
人件費と絡んで技術の継承問題もある。これまで、マーケットの縮小に伴って、技術者を減らさざるを得ない状況が続いた
併せて、技術者を育ててきた学校が、どんどんなくなっている。また、少子化によって、若い人たちが業界に目を向けなくなってきている。大手ゼネコンの「地図に残る仕事」というCM。あのフレーズはかなり反響がある。測量業界もうまくPRしなければならない。
とにかく、われわれが活躍できるマーケットが増えなければ解決しない。現実的に、今は目の前の仕事に飛び付いている状況が続いている。景況に明るさが見えつつあるといっても、先が見通せないからだ。業界の活況も一過性になってしまうのではないかと心配している。
その懸念は、昨年度末からの状況を見れば説明がつく。景気回復のマインドが上がってきた矢先、4月になったら、発注がばったり止まってしまった。全国的な傾向で、理由は分からないが、全測連の会員の中でもそういう話が出ている。
このように、予算が組まれてもどの程度の発注があるかが見えてこない。事業計画や受注計画も測量業の委託業務という性質上、立てづらい。地籍調査のように10年スパンの事業が、もっとあり安定的な業務確保につながれば、人材確保や育成も積極的になると思う。
もう一つの課題は入札契約制度。測量業界の実態は、公共事業がいまだに売り上げの6割を占めている。もともと、地方公共団体などの技術協力が業界の成り立ち、との理由もある。
神奈川県では、2009年の工事系委託の入札制度改革で、測量などの最低制限価格率が予定価格の80%と定められた。80%と決められると、競争の原理で必然的にその水準に落ち着いてしまう。だから、最低制限価格率を上げてほしいと要望している。一番強力にお願いしたいのがこの問題だ。
工事は、最低制限価格率の「実質90%」への引き上げが実現し、2013年11月1日の入札公告案件から適用されている。
測量を含む工事系委託で県が引き上げに踏み出せない理由は、国の中央公契連モデルの算定式を参考にしているためではないかと思う。
ところが、北海道をはじめ、18の道府県が国のモデルを使っていないと聞く。神奈川県が最低制限価格を導入した当時、80%という値は全国でも上位10に入るほど高かった。ところが、現在新潟県を筆頭に80%を超えて設定する県がたくさんでてきた。
更に粘り強く県に要望するしかない。
神奈川県県土整備局が試行を始めた「いのち貢献度指名競争入札度」だが、果たしてどのくらいの割合で実施してくれるのか。県は数値目標を立てておらず、やや不安な面がある。
県は出先事務所の所長の裁量が大きい。地域の事情も異なるだろうし、談合の復活など「昔に戻る」といった懸念を持つ発注者もいるかもしれない。
しかし、その心配はまずないと思う。電子入札がこれだけ長い期間実施されていると、もはや業者間に信頼関係はない。協会は、単価のアップや技術の向上に向けた取り組みなどを結束して行っている団体で、決して疑念を抱かれるような存在ではない。以前は、その地域の中核の会社が指名されたが、今回の新たな指名競争入札は選定基準が複雑で難しくなった。かつての状況とは全く異なる。
いのち貢献度指名競争入札の中で、(さらに指名業者を絞り込んだ)インセンティブ発注を提案している。神測協の会員は、災害援助協定等の社会貢献活動に取り組み、会社負担で社員の技術の向上や成果の品質確保に努めている。各協会員の努力も一定程度認めてほしい
関連して、入札参加者の中には社会保険等の公的保険制度に加入していない企業も存在する。技術者単価には、各種社会保険の「事業主負担額」の経費も含まれている。保険未加入者は、その分の経費が利益になっている。
その懸念は、昨年度末からの状況を見れば説明がつく。景気回復のマインドが上がってきた矢先、4月になったら、発注がばったり止まってしまった。全国的な傾向で、理由は分からないが、全測連の会員の中でもそういう話が出ている。
測量業は測量士が一人でもいれば業登録できる。しかし、公共事業に参加するとなると話が違ってくる。履行の確実性の観点から言えば、登録さえあれば公共の測量業務に入札参加できるという条件設定はあまりよくない。
神奈川県では測量委託業務は表彰制度に入っていない。業務成績上位者に対する出先事務所長による感謝状の制度はあるが、正規の表彰規程がつくられていない。国レベルで言えば、都県・政令市の表彰の実績を総合評価落札方式の加点評価対象とする試行案件がある。同じ土俵で競争する場合、表彰規程がない県内企業は不利になる。この件は、表に出して要望していきたい。