―今回の改正のポイントと、期待する効果は何か。
「今回の足場からの墜落防止措置に関わる改正は『足場からの墜落防止措置の効果検証・評価検討会』での検討を踏まえたものだ。検討の中で、どのような状況で墜落・転落災害が起きたのか分析したところ、墜落・転落災害のうち9割は現行の安衛則を守らなかったがために起こった労働災害であることが分かった。今回の改正は『いかにして守らせるのか』という着眼のもと、『やるべきこと』をさらに明確化し、墜落・転落による労災防止の徹底を図ることが狙いだ」
「例えば、足場の組み立てなどの作業に関わる墜落防止措置については第564条第1項4号にしっかり書き表し、徹底してもらうようにしたこともその一つ。手すりなどを取り外したときの原状復帰措置についても書き込んだ。現行の規則では守られていない部分について『やるべきこと』を明確化するようにした」
「実は、残りの1割の事故は、現行の規則が守られていたにも関わらず起きていた。この中の85%ぐらいの事案には不安全行動などがあった。たとえ規則を守っていたとしても不安全行動があれば労働災害が起きるリスクは高まってしまう。こうした事案に対する措置として追加したのが、組み立て作業従事者に対する特別教育だ」
―「墜落・転落」、建設機械などによる「はさまれ・巻き込まれ」「倒壊・崩壊」―のいわゆる建設業における三大災害は長期的に見れば減少傾向にある。だが、その一方ではこれらの種類の災害と交通事故の多発が常態化してしまっているように見える。
「たしかに大幅と言われるほどまで減少させることはできていない。(三大災害の絶滅に向けた)取り組みということで言えば、足場に着目した今回の安衛則改正もその一つだし、土砂崩壊について言えば、近年の豪雨や大雨災害の発生を踏まえ、労働災害防止のためのガイドラインを近く示したいと考えている。『はさまれ・巻き込まれ』で言うなら、新規就業者の危険認識が低いために、つい重機の近傍で作業してしまう―ということがあるのかもしれない。こうした点は新規就業者教育の中でも重点項目にする必要があるのではないか、とも思っている。われわれ安衛部としては、こうしたツール、あるいは武器となるものをリスクが高いものから順次、用意し、提供していくつもり。」
―厚労省は事業場における転倒災害防止の徹底を図るため「STOP!転倒災害プロジェクト2015」を展開している。建設業でも転倒災害が増加しているようだが。
「建設業の転倒災害は、人間が転んだだけではなく重機が転倒した場合も含まれるが、建設現場では高齢者の転倒が増えている。一度リタイアして再び第一線に復帰した高齢者や、他産業で働いていて建設業に入職した高齢者が事業場内の段差のあるところなどで転倒してしまうことがあるようだ」
「正直なところ、これまで転倒災害を軽視してきたところがある。転倒災害を建設業に限らず分析してみると、けっこう重篤な状態になってしまっているケースが多いことも分かっている。建設業の方たちにこうした事実をしっかり伝えたい。ホームページには『STOP!転倒災害プロジェクト2015』のページを作っている。14年には見える安全活動コンクールの中に転倒防止活動に関する類型も作り、優秀な活動を掲示している。建設業の方たちにも知ってもらい、参考にしてもらいたい」
―14年に熱中症で死傷した人は建設業が最も多かった。厚労省は、建設業と建設現場に付随して業務を行う警備業を、製造業とともに15年の重点業種に指定している。
「屋外作業の多い建設業は、体温のコントロールが難しい。建設業と建設現場に付随して業務を行う警備業については次の4項目を重点事項としている。1点目はWBGT値(暑さ指数)を確認した上で、簡易な屋根を設置したり、冷房設備を設ける、通気性のよいクールジャケットを装着するなど作業環境管理や作業管理を行うということ。基準値を大きく超える場合には原則作業を行わない、という判断も必要になってくる。2点目は健康管理をしっかりしてもらいたいということ。朝礼時などに作業員の健康状態を確認し、作業場所の変更や作業転換を行うということも大事だ。3点目は、たとえ自覚症状がなくても水分・塩分を定期的に摂取するということ。4点目は熱に順化する、慣れる期間を設ける必要がある、ということだ。熱中症による死亡者の約5割が作業開始から7日以内に発症しているという調査結果もある」
―降雨による斜面・土砂災害と、これに伴う労働災害の発生が懸念される季節がやってきた。
「斜面・土砂崩壊による労働災害の中には、地盤状態を把握しないまま切土が行われてしまって斜面崩壊を起こしたり、掘削中の降雨や湧水が斜面崩壊を発生させ、労働災害を起こしている事例も見られる。工事の性質上、斜面・土砂崩壊は公共工事の現場で起こるケースが多い。安衛部はいま斜面・土砂崩壊による労働災害の防止対策に関するガイドラインを策定中だ。関係機関との協議を終えしだい、できるだけ早く点検表を含むガイドラインを公表し、安衛則358条等に規定されている掘削作業に関する事前調査、点検の確実な履行を求めていきたい。発注者、設計者(建設コンサルタント等)、施工者がこの点検表を活用して地山の変化などに関する情報を共有し、より適切な掘削作業ができるようにしたい」
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