三重県の鈴木英敬知事は、2期目を迎えた6月県議会の所信表明で「実行、実現、結果が求められる。三重県の未来に『幸福実感日本一』の花を咲かせる」と開花宣言を行い、6月5日には、その一つの施策であった「伊勢志摩サミット」を現実のものにさせ、早くもつぼみを咲かせた。そこで、2期目に臨む姿勢や、伊勢志摩サミット開催にかける思い、経済、地域振興に不可欠な道路整備の在り方、公共事業を担う建設産業の活性化に向けての取り組みなどについて聞いた。
〈知事2期目に臨む姿勢〉
――知事は1期目に、「日本一幸福が実感できる三重県」を旗印に上げ、その実現に向けて全力で取り組んでこられた。そこで、1期目の成果を踏まえて、2期目にどのような姿勢で臨んでいるのか、そのポイントから伺います。
「最初に知事になった時は、東日本大震災から1カ月が経ち、また、リーマンショックの影響で日本全体の経済もそうでしたが、三重県の経済も立ち直っていない時期でしたから、それを回復させることが至上命題でした。そこで、最初にどういう知事を目指すのか、と聞かれたときに、『営業知事』と『防災知事』ということを言って施策に取り組んできたわけですが、特に経済面では県内総生産について、2012、13年に過去最高になりましたし、失業率については、14年には全国でも一番低い状況になるなど、そういう部分では一定の成果を果たせたのではと思っています」
「防災面でもハード・ソフトの事業に取り組んできたわけですが、2期目は、防災について、『防災の日常化』で防災を身近なものにしていくことを目指しており、そのために、県民の皆さんの意識づくりと人材育成をしっかり行っていきます。また、多くの施策の中で、教育や医療も道半ばですし、もちろんインフラ整備もまだまだ道半ばなのでしっかりやっていく考えです」
〈伊勢志摩サミットの開催に向けて〉
――公約の一つであった伊勢志摩サミット(以下、サミット)の開催が決定し、多くの県民が喜びの声を上げたと思います。2期目に向けて弾みをつけることになりましたね。
「2期目としては、サミットが決まりましたので、まずはこれを成功裏に終わらせるようしっかりと力を入れていきます。そして、サミットの後には、17年には伊勢市で菓子博、18年にはインターハイ、21年には三重国体があり、道路インフラ整備も重要になってくると考えています」
――サミットを成功に導くためには、多くの課題があるかと思います。周辺地域の環境や安全性の向上などで必要となる整備について伺います。
「サミット成功の一つの要件は安全で、無事故であることが大切であり、それが一番のおもてなしだと思っています。そのために、景観や警備安全上、一定の周辺の樹木の剪定(せんてい)や維持補修などが必要になると思いますので積極的に取り組んでいきます」
――サミットによる効果をどのように考えていますか。
「サミットをきっかけにして、三重県ならではの取り組みが継続されていくことが一つの効果だと思います。例えばた、国内でサミットの前会場となった北海道洞爺湖の場合、『食』や『環境』というテーマを決めて環境総合展を行ったり、フード特区など食の特区になったりという取り組みを行っています」
「経済効果もよくいわれ、それも大事なことですが、まずは、サミットを契機に知名度が上がって観光客の方にも来ていただいて、道路も通ってもらって、いいアクセスだねと言ってもらって、インフラも含めて知名度を上げられるような情報発信を行うなど総合力が高まっていく、というのがサミット後の効果として一番大事なことだと思います」
〈社会基盤整備の重要性〉
――観光集客や地域の振興、災害に強い県土づくりのためにも道路整備の重要性が高まってきますね。
「私が知事になったときは、道路の改良率が全国39位と極めて低い状態でした。特に、紀伊半島大水害を11年9月に経験したこともあり、(東紀州など)南の方のミッシングリンクについては、なんとしてもつないでいくという思いで取り組んできました。その結果、近畿自動車道紀勢線については、熊野尾鷲道路(U期)、新宮紀宝道路、熊野道路と3年連続で新規事業化になったことは大変ありがたいことであり感謝しています」
「北の方では、新名神の三重県区間の全線開通および亀山西ジャンクションのフルジャンクション化の同時供用が予定されていますが、さらに一日でも早くと考えています。1期目の任期中に、東海環状西回りの東員〜大安間は18年度に開通という見込みが出されましたが、大安から先の県境までは開通見込みが出ておりませんので、21年の三重国体までにはなんとしても仕上げていきたいと思っています。新名神が18年に完成するなど、平成30年代前半に高速ネットワークが概成しますので、これに北勢バイパスができて全体がつながればもっと効果が発揮できます。また、霞4号幹線が17年度に開通しますし、さらに北勢バイパスについては、未事業化区間をしっかり事業化していただき、供用開始年度が決まっていない区間について供用開始を決めてもらうことが最重要課題の一つだと思っています」
――道路整備によるストック効果の発現が期待される一方、地域間格差も依然として大きいものがありますね。
「国土交通省もストック効果といっていますが、紀勢自動車道、熊野尾鷲道路の開通により熊野市ではスポーツ交流による宿泊者が増えて、開通前の2.5倍ぐらいになっていますし、経済効果も年間約2.6億円とストック効果も出ています」
「ただ、地方創生の時代といいながら、都会ばかりに道路ができ、三重や地方ではインフラが整っていないという、都市部と地方では競争条件に差がある状態です。競争条件が一緒ではないのに地方創生で競い合えというのは無理があると思います。私たちも自助努力をしっかりしますから、インフラ整備をしてもらい競争条件を整えてほしいというのが切なる願いです」
――豪雨による災害や大規模地震に備えた防災面での取り組みもますます重要度が高まっていますね。
「東日本大震災直後は津波のことが非常に大きくクローズアップされましたが、昨年の広島の災害のことも踏まえて土砂災害の大きさもインパクトをもって語られています。三重県は台風の通り道でもありますので、海岸堤防、土砂災害への備えもしっかりと取り組んでいきます」
〈建設産業の活性化支援に向けて〉
――公共事業の担い手としての建設産業では、経営の健全化や担い手の確保などが課題となっています。その施策の指針となる「三重県建設産業活性化プラン」について、次期計画の策定に向けてのポイントから伺います。
「現行の三重県建設産業活性化プラン(以下、プラン)のキーワードとして掲げた、技術力、経営力、地域貢献の目標に対しては一定の成果が得られたと考えています。一方で、東日本大震災以降、プランを策定した時期と比べて、建設資材の高騰、人材不足などさまざまな状況が大きく変化しました。また、品確法など法律の改正もあり、そうした環境の変化を踏まえ、次期プランを作成していく必要があります。作成に当たっては、発注者側の理論ばかりでなく、受注者側から見て、どういうふうにしたら活性化していくのかという視点もしっかり入れたプランになればと思っています。本年度後半に向けて、しっかり議論していきます」
――建設業が活性化することで、地域への貢献度も高まりますね。
「特に、三重県の場合は、建設業に地域を支えていただいている部分が非常に大きいと思っています。災害時の対応の中で、道路啓開一つとっても建設業の皆さんがいないとできないわけです。地域を守るという意味で建設業の皆さんの果たしている役割は非常に大きいと思っていますし、一人親方の方もボランティアで家具の固定などをやっていただいたりしています」
「産業政策のみならず、地域を支える存在としての建設業を大事にしていきたいし、頑張っていただける環境をつくっていかないといけません。当然、行政だけで取り組むのではなく、業界も自助努力で頑張っていただかないといけない部分も多々あると思いますが、お互いに協力していきたいと思っています」
――プランを実効あるものにするためには建設業の経営の安定が必要であり、一定の利益の確保が必要ですね。
「建設業の活性化のためには、経営の安定化が不可欠であり、公共投資に頼らざるを得ない面も大きいと思います。財政が厳しいからと弱音を吐くつもりはありませんが、財政の収入によって支出も決まってしまいますので、その中で、必要な公共事業が削減されるようなことがないようにはと考えています」
「今後、新規の投資は少なくなっていき、維持補修やメンテナンスの部分が増えてくると思います。維持補修は国に対しても要望していますが、維持補修に地方債を充てるとか、河川の堆積土砂の撤去も一般財源で補うのではなく地方債のような形で出せれば、本当はもっと計画的に発注できると思います。そういった国の制度もいろいろと変革してもらえればと考えています」
――最後に建設業に向けてエールをお願いします。
「建設業にとって、技術を磨くこと、技術を探求することが大切だと思います。それを、それぞれで努力していただき、経営者の皆さんは、経営について学んでいただき、自己研さんしていただくことが大事なことだと思います。私たちも人材の確保、育成や技術に関する最新情報の提供などでサポートをさせていただきます。そういう企業の皆さんの努力とわれわれの行政の取り組みやサポートが相まって建設業が元気になっていけるよう協力して頑張っていきたいと考えています」