2012年の笹子トンネル事故をきっかけに、社会資本の維持管理の取り組みは大きく動いた。「メンテナンス元年」と呼ばれた13年を経て、橋梁やトンネルなどの5年に一度の近接目視を定めた国土交通省令が14年7月に施行。ことしは、こうした施策の成果が出てくる最初の年となった。国交省中部地方整備局管内(長野県を除く)の道路管理者が14年度に点検した橋梁は合計11189橋。膨大な点検データから見えてくるものは何か。愛知・岐阜・三重の3県の状況を取材した。
愛知県内の道路管理者が2014年度に点検した橋梁は3786橋で、当初予定していた3899橋に対し、ほぼ計画通りの進捗(しんちょく)となった。点検の結果は、老朽化の軽度な順に▽T・健全▽U・予防保全段階▽V・早期措置段階▽W・緊急保全段階―4段階に区分される。14年度の点検では、区分Tが1530橋、区分Uが1897橋、区分Vが356橋、区分Wが3橋だった。
管理者別に、点検済みの橋梁の割合を見ると、国土交通省の17%(181橋/1062橋)や愛知県の17・1%(905橋/5284橋)に対し、市町村は14・8%(2627橋/1万7724橋)と2ポイント強低かった。それでも、全国平均と比べれば、愛知県内の市町村の進捗は早い。
県内にある2万4885橋のうち、市町村が管理している橋梁は1万7724橋と大半を占める。国道や高速道路と比べると狭小な橋が大半を占めるものの、その数は膨大だ。小規模な市町村では技術職員が不足しており、点検業務の発注が負担となる恐れもある。
こうした課題を解決する取り組みが「一括発注」だ。愛知県では、都市整備協会が発注者となり、市町村の点検・診断業務をまとめて外部に委託する。15年度は11市町の業務について、点検業者4社と契約を締結した。
最優先の調査対象となっている道路の点検状況を見ると、▽跨線橋が44橋の計画に対して33橋▽緊急輸送道路を跨ぐ跨道橋が102橋の計画に対し88橋▽緊急輸送道路を構成する橋梁が750橋に対し625橋―で、いずれも計画を下回った。
特に、跨線橋の点検で課題となっていたのが、点検箇所や時間帯に関する鉄道会社との協議だ。このため中部地整は、これまで道路管理者ごとに個別に行っていた鉄道事業者との協議を一括して調整することにした。
15年度には、14年度より100橋近く多い4849橋を点検する。もともと点検作業を本格化させる予定だった上に、跨線橋など、14年度の計画で消化しきれなかった分を15年度に追加したためだ。さらに、点検結果の蓄積と並行して、今後は予防保全計画の策定や補修を進める必要がある。建設後50年が経過した橋梁が急激に増える中、進行する老朽化に先手を打つ取り組みはこれからが正念場だ。
道路法に基づく5年ごとの定期点検のうち、2014年度から始まった橋梁点検について、三重県下では、1358橋の点検が実施され、実施率は約7%となった。国土交通省、中日本高速道路、三重県、県下29市町などの道路管理者と関係機関で組織する「三重県道路インフラメンテナンス協議会」が、9月4日に開いた15年度第2回会議で、実施状況や15年度計画などを公表した。
点検計画によると、三重県下の全ての管理橋梁は1万9608橋。このうち国土交通省が948橋、中日本高速道路が338橋、三重県(道路公社含む)が4223橋、市町が1万4099橋。14年度の点検実施状況は、全体が1358橋で、内訳は国土交通省が193橋、中日本高速道路が9橋、三重県が724橋、市町が432橋。
15年度の点検計画の見通しでは、14年度に未実施となった件数を計画に追加し、全体で4830橋(うち未実施数70橋)を掲げた。
同協議会では、市町へのニーズ調査で回答があった「土木技術職員の不足」「点検業務委託が困難」などの課題解決を支援するため、「地域単位の一括発注」を実施している。三重県の場合は、三重県建設技術センターが市町から受託し、同センターが外部委託を行う。14年度に7市町が同センターに委託した。15年度は9市町の予定で、既に7市町で実施した。
点検業務の外注に際し市町からの「職員に点検スキルを習得させる体制がない」「点検結果の評価・判定困難」などのニーズに応えるため、国、県などが研修も実施している。道路構造物管理実務研修では14年度に約230人が受講した。15年度は約270人の受講を予定している。また、ウエルカム・出前講座には14年度に166人が受講した。15年度には13回の研修に加え、新たに橋梁補修設計(3回)を予定。技術支援の点検などのサポートでは、14年度に14市町、62橋を支援した。15年度には新たに設計サポートを追加する。
国土交通省中部地方整備局、岐阜県、中日本高速道路、県内42市町村などの道路管理者と関係機関で構成する「岐阜県道路メンテナンス会議」(会長・水谷和彦国交省岐阜国道事務所長)は、8月に開いた2015年度第2回会議で、岐阜県下の全ての管理橋梁2万6132橋のうち、点検を実施した2850橋の健全度判定を公表するとともに、15年度の点検目標として6355橋以上を計画していることを明らかにした。
健全度判定は、「健全(T)」「予防保全段階(U)」「早期措置段階(V)」「緊急措置段階(W)」の4段階に分類。判定区分「T」が903橋、判定区分「U」が1604橋、判定区分「V」が338橋、判定区分「W」が5橋だった。「V」と「W」に診断された橋梁は343橋で、点検実施数の12%を占める。「W」とされたのが、「東上田8号1号橋(下呂市)」「折本橋(揖斐川町)」「別所橋(川辺町)」「高野橋(同)」「箕打洞橋(同)」の5橋。現在全てが通行止めとなっている。
人道橋として利用されていた東上田8号橋を管理する下呂市は、河川改修に合わせて早期の架け替えを目指す。折本橋を管理する揖斐川町では、今後地元と協議を進め、これまでの車道橋を人道橋として改修する予定だ。順調なら5年以内に計画をまとめる考えでいる。また、別所橋、高野橋、箕打洞橋を管理する川辺町は、この人道橋3橋を16年度に撤去する予定でいる。
第2回会議では、市町村が実施する点検・診断の発注事務を県などが受委託する地域一括発注の進捗状況が報告された。14年度に7市町が活用して211橋を調査した。15年度は32市町が2632橋を予定しており、これまでに27市町分の2267橋が契約済みで、残りの契約に向けて調整している。
また、国交省中部技術事務所が、市町村職員の技術力の向上のため、点検要領に基づく点検に必要な知識・技能を習得するための「道路構造物管理実務者研修」を開いている。岐阜県下では14年度に市町村職員45人が受講。15年度もこれまでに27人が受講した。同会議主催の「現地点検講習会」には14年度に延べ137人が受講。15年度も8回開く予定。