気象庁の発表では、今年の夏は、例年と比べ、暑い日が多いと予想しており、愛知労働局では、「熱中症」への注意喚起を呼び掛けている。愛知県下の建設業では、2016年に1件の死亡災害、6件の休業4日以上の熱中症労働災害が発生し、2年連続で増加した。厚生労働省では5月1日から9月30日までの期間を「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」として、熱中症を予防する取り組みを全国で展開している。愛知県下の熱中症の発生状況や発生防止への取り組みなどを、愛知労働局労働基準部健康課の近藤慎次郎課長に聞いた。
――16年の愛知県内の全産業における熱中症発生状況は。
「死亡災害が建設業で1件発生している。15年の4件と比べ減少しているとはいえ、看過できない状況である。休業4日以上の熱中症労働災害は30件発生し、15年と比べ11件増えた。死亡と休業を合わせた全産業の熱中症による労働災害は31件で、15年の23件と比べ8件の増加となった。14年と比べると14件の増加となりほぼ倍増した格好だ」
――建設業における発生状況は。
「熱中症による死亡災害が1件発生した。15年にも1件発生しており、2年連続で死亡災害が発生している。直近の5年を見ると、14年を除き毎年死亡災害が発生している状況である。5年間の全産業の熱中症死亡災害9件のうち、建設業が4件と、全産業の4割以上を占めているのが現状だ」
――17年の推移はどのように見ているか。
「今年の6〜8月の暖候期予報を見ると、夏の気温は平年より高いと予報されている。15年、16年と同様に気温が高くなり、熱中症の発生件数が増加することを懸念している。改めて、作業時間の調整、休憩場所の整備、水分や塩分の摂取、日常の健康管理など、熱中症に対する予防管理や暑さ対策を再度、周知・徹底してほしい」
――熱中症の発生要因は。
「熱中症は暑熱環境に適応できず、体温調整や循環機能などの働きに障害が起きる病気の総称である。多量の発汗によって体内の水分や塩分のバランスが崩れ、筋肉組織や循環機能に障害が起こる。または、高温多湿、無風状態に近い環境などの影響で、汗をかいても体温の発散ができず、体温上昇が起きたときに発症することが多いといわれている。大量に汗をかき血液中の塩分が急激に薄まると、めまいや失神、筋肉痛、筋肉の硬直、大量の発汗を訴えることがある。また、脱水症状(水と塩分の喪失)により、頭痛、吐き気、倦怠感、虚脱感などの症状が現れることもある。さらに、重篤な場合は、体温調節機能が急激に破綻することで、体温の異常上昇、意識障害、けいれん、手足の運動障害などの症状が現れ、死亡に至ることもある」
――どのような点に注意すべきか。
「暑さ指数の測定や作業環境管理、作業管理、健康管理、安全衛生教育などの暑さ対策を徹底することが重要である。JISに準拠したWBGT値(暑さ指数)測定器を使いWBGT値を随時把握し、WBGT値の低減や休憩時間の確保などの対策を講じることが必要である。測定の際、作業場所が近くても太陽照射や輻射熱の影響でWBGT値が大きく異なる場合もあるので注意が必要だ」
「次に、このWBGT値に基づき、作業環境管理、作業管理、健康管理状況を確認することが大切である。まず作業環境管理では、休憩場所に氷や冷たいおしぼり、水風呂、シャワーなどが整備されているか、飲料水やスポーツドリンクが備え付けられているかを確認してほしい。次に作業管理では、作業時間を短縮し休憩時間を長めに設定することや、WBGT値を大幅に超える場合は、思い切って作業を中断することも考えたい」
「7日以上掛けて、熱に順化する期間を長く設けることやクールベストなど通気性の良い服装を検討することも大切である。健康管理については、前日の飲み過ぎなど日常の健康管理、管理者による作業開始前や作業中の巡視など、労働者の健康状態の把握に努めることも励行してほしい。特に、糖尿病や高血圧症、心疾患、腎不全などの持病がある場合は、リスクが高くなるといわれているので、特段の配慮が必要である」
――建設業で徹底すべき熱中症対策は。
「厚生労働省は5月1日から9月30日までを『STOP!熱中症クールワークキャンペーン』期間として、職場や事業場での熱中症を予防する運動を全国で展開している。事業場ごとに熱中症予防管理者を置き、WBGT値の低減対策、熱への順化状況、労働者の体調、作業時間の調整、水分や塩分の摂取状況などを確認することを求めている。そして、異常を感じたら、体温を測定し、水分や塩分を摂り、濡れタオルなどで体温を下げる措置をし、迷うことなく救急隊を要請することが大切である」
「熱中症は最高気温が高まるにつれ多発する傾向がある。ただ、気温だけでなく、湿度や輻射(放射)熱などにも影響するため、より正確に作業場状況を把握するためには暑さ指数(WBGT値)を実測し、常に作業現場の実態を把握することが必要である。そして、休憩場所の整備、水分・塩分の補給体制、日常の健康管理、熱への順化、作業時間の短縮・休憩時間の確保、作業服の工夫、作業者への教育などが事業者に求められる」
「16年の熱中症発生状況を見ると、『工事現場で監督中に気分が悪くなった』『日陰のないところで型枠工事中に倒れた』『型枠解体中に足がしびれ救急車で搬送された』など、建設現場での状況が報告されている他、『工事現場で交通誘導中に気分が悪くなった』『工事現場で立哨中に倒れた』など、警備業の症例も少なくない。建設業の元請け会社は、建設業の作業者だけでなく、共に現場で働く警備員の皆さんにも暑さ対策を講じていただくことを要望したい」