Catch-up 正念場の国土強靱化
建設業に関わるトピックスを分かりやすく解説するコラム『Catch-up』最新号を掲載します。
正念場の国土強靱化 「5か年後」未だ不透明 2024/5/9
公共事業費に国土強靱(きょうじん)化のための事業費を上乗せする政府の予算編成の枠組みが区切りを迎えている。自然災害からの被害を最小化する公共事業の財源を確保する「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」は2025年度までを期限としており、最終年度の予算編成が間もなく本格化する。
5か年加速化対策を巡っては、自然災害が激甚化・頻発化する中で対策の継続を求める地方自治体の強い期待を受け、昨年6月に改正国土強靱化基本法が成立。事前防災やインフラの老朽化に中長期的な見通しを持って取り組めるよう、政府が「国土強靱化実施中期計画」を策定することが法的に位置付けられた。
しかし、改正法成立から間もなく1年がたつ今も、中期計画が策定される見通しは立っておらず、事業規模も決まっていない。
5か年加速化対策によって、政府の公共事業費には、初年度の20年度に国土強靱化関連で約1兆7000億円を積み増し、翌年度以降も1兆3000億円を超える予算をいずれも補正予算で上乗せしている。ただ、対策の事業費は23年度までに国費ベースで80%以上を予算措置しており、このままでは最終年度の予算措置が過去4年の平均を下回る可能性がある。
5か年加速化対策では、河道掘削や護岸改良などの事業が進み、全国で大雨からの被害を軽減した効果が確認されている。あらゆるインフラに被害をもたらした能登半島地震もその例外ではなく、加速化対策によって整備されたインフラが、被害の軽減や住民の避難活動を支えた。
記録的な物価上昇の中で、政府予算が前年度を下回ることになれば、こうした事業が停滞し、自然災害から国民の生命・財産を守ることもままならなくなる。
建設業界側も危機感を強めている。日本建設業連合会(日建連)の宮本洋一会長は、4月の総会後の会見で、「5か年加速化対策の終了を待つことなく、早期に中期計画を策定し、現行以上の予算額を確保するべきだ」と語気を強めた。日建連は25年度の予算編成が始まる6月までに、政府・与党の関係者に計画の早期策定を働き掛けるとしている。
現道・維持工事の歩掛改正 資材基地からの移動は労働時間 2024/4/18
朝、家を出て、資材基地に寄ってから現場に向かう。このとき、いつから始業したことになるのだろうか。労働基準法では、会社の指示で資材を積み込んでからの移動時間は労働時間に含まれると考えられる。国土交通省は現場の実態を踏まえ、資材運搬などで移動時間を要すると考えられる工種の歩掛を2024年度から改正した。
これまでも、朝礼や準備体操、後片付けなどは1日の労働時間に含まれるものとされ、これを除いて設定した実作業時間に基づき標準歩掛を設けてきた。しかし、路上工事のように常設の作業帯を備えることが難しい工事では、当日の工事に必要な資材を会社が管理するヤードなどから運んでくる必要がある。
国交省は、資材基地から現場までの移動時間を適切に反映するため、22年度に施工合理化調査の項目を変更した。その結果、現道・維持関係の11工種で、現場移動により実作業時間が短くなり、1日当たりの施工量が減少する傾向を確認。今回、歩掛を見直すことにした。
対象となったのは、▽舗装版破砕工▽舗装版切断工▽電線共同構工▽場所打擁壁工▽橋梁補強工(コンクリート巻き立て)▽伐木除根工▽安定処理工(バックホウ混合)▽泥水運搬工▽現場取卸工▽踏掛版設置工▽グラウトホール工−。歩掛の見直しにより、これら11工種では資材の積み込みや現場までの移動が就業時間に含まれることが明確になった。
ただ、この他の工種であっても、会社の指示でいったん事務所に集合し、それから同じ車両に乗り合わせて現場に向かう場合など、現場移動が労働時間に含まれるとみなされるケースがある。4月からは時間外労働の罰則付き上限規制が建設業にも適用されている。建設企業の使用者には適切に労働時間を把握・算定するよう、一層の注意が求められる。
厚生労働省は、時間外労働に含まれるか否かの判断の目安として、建設業向けの「Q&A集」をオンラインで公開している。それでも判断に困る場合は、労働基準監督署などへの問い合わせも可能だ。
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インボイス制度が10月1日から始まった。企業間の重層的な取引が多く、一人親方などの免税事業者が多数働いている建設業界に及ぼす影響は大きい。元請け・下請けの双方で事務負担の増加が懸念されることに加え、税負担を巡る取引条件の見直しにもつながるからだ。特に、免税事業者に対する一方的な取引価格の引き下げなどは、独占禁止法に触れる恐れもある。
インフラの老朽化が喫緊の課題となる中、国土交通省が新たな考え方に基づく対策「地域インフラ群再生戦略マネジメント」(群マネ)を打ち出した。ターゲットは中小の自治体が管理する道路や上下水道、河川、公園など。この取り組みは、施設の点検・診断や補修工事を受注する地元建設業者にとっても重要な意味を持つ。発注方法が大きく転換することになるからだ。
建築分野の脱炭素化を巡る状況が大きく変わりつつある。これまでは空調や照明といった建物の供用段階での省エネルギー化に焦点が当たっていたが、施工段階で排出される二酸化炭素がクローズアップされるようになった。重機の稼働や建材の製造・運搬など、その対象は幅広い。国内では主要なデベロッパーが排出量算定のルール作りに取り組む一方で、海外では既に排出量の規制も含めた制度整備が始まっている。
国土交通省は直轄土木工事の工期設定指針を改定し、「猛暑日」を天候不良による作業不能日で休みとした。建設現場で暑さを避け作業を休止する時間が増えてきたため、これまで工期設定段階で、雨と雪についてのみ認めてきた天候不良による作業不能日の扱いを改めた。2024年度からの時間外労働の上限規制適用も見据え、より実態に見合った工期設定を目指す。